支援について

「ナラティブ・セラピー」という心理支援

 

誰しも辛い経験ってありますよね

・どうしても許せない親からの発言がある


・優秀な兄弟と自分を比べられていた


・学校で虐められていた


・上司に理不尽な評価を受けた

精神科病院や福祉の現場で働いていると、上記のような体験の話をよく聞きます

そう言った、過去の辛い体験からの解放のヒントとなる
心理支援があります

それが、ナラティブ・セラピーです。

私はこのセラピーの考え方が好きで、臨床の場面でとても参考にしています。

今回は、ナラティブ・セラピーとその効用について、書いていきたいと思います。

 

 

ナラティブ・セラピーとは

「ナラティブ」には「物語」という意味があります。


ナラティブ・セラピーは、他の心理支援同様
セラピストがクライアントの話(物語)を傾聴します。


ナラティブ・セラピーの技法として、特に強調されるのは
クライアントの物語に「唯一正しい理解はない」という姿勢で話を聴く
ということです。

セラピストが「唯一正しい理解はない」という姿勢で傾聴を続けることにより
クライアントはその辛く苦しい物語に「新しい意味」を見つけることができます。

そして、その辛く苦しい物語から解放されていきます

支配的な物語、代替された物語

人は生きていくためには勇気が必要です
だけど、辛く苦しい物語に支配されていては、勇気を持つことはできません


この辛く苦しい物語のことをナラティブ・セラピーの用語で
ドミナント・ストーリー(支配的な物語り)と言います

過去の経験が、現在を生きる自分を支配する物語として
自分の身体を縛り付ける、そして苦しめる、、
辛いですね

その物語を「唯一の正しい理解はない」という姿勢でセラピストが傾聴することで
クライアントのドミナント・ストーリーは
オルタナティブ・ストーリー(代替された物語り)に変わり
クライエントは勇気付けられ、生きていく勇気を持つことができるとされています

「物語」自体が消えるわけじゃないけれど

ナラティブ・セラピーで重要なことは、
辛く苦しい物語が、まっさらに消えるのではなく、物語に「新しい意味」がつけられるということです

過去に起きたことを真っ向から否定するのではなく
受容して新しい解釈を加える、ということですね

ナラティブ・ストーリーの3学派

ナラティブ・ストーリーには3つの学派があります

・エプストン学派
「ユニークな結果」に焦点を当て、共有していくことで新しい物語へと書き換えていく


・グリーシャン、アンダーソン学派
セラピストはクライエントに対し「無知の姿勢」を保つべき


・アンデルセン学派
「客観的な観察者としてのセラピストという立場」を放棄する

 

どの学派も素晴らしいことを言っていると思うのですが
私はグリーシャン、アンダーソンの
「無知の姿勢」を保つ、ということに深い共感を覚えます

 

「無知の姿勢」 他者の経験は他者のもの

経験というのは厄介なもので、なんでも知った気になってしまいます


知った気でクライエントの話を聞いてしまうと


「つまりはこういうことだよね」
「自分は辛かった時、こういう風に乗り切ったよ」


こういったように、自分の経験と照らし合わせて話をまとめてしまったり
状況が全然違う場合のアドバイスをしてしまったり

そうやって出てきた返答は
クライエントの求めている返答ではないことがほとんどです


実生活でも「俺が若い時はもっと根性出して頑張ったぞ!」
とか、的外れな回答してくるおじさまって結構いますよね^^;

支援者の自己顕示欲が混じった返答は、良い返答とは言えませんね

そんな返答を繰り返していたら、いつかクライエントは心を開いて話してくれなくなってしまいます。

支援者の経験に縛られず、クライアントの話を「無知の姿勢」で傾聴すること
それは言葉で言うよりも難しいことなのだけれど
とても大切なことなのだと思います。

大丈夫、進めるよ

精神科病院で働いている時、親からの虐待の呪縛に囚われている患者さんがいました。


夜になると不安になるようで、ナースステーションを訪れては
泣きながら辛かった経験を話していました。
私はなるべく、自分の解釈を加えず
だけど、話を聴いている姿勢はちゃんと示しながら、その話を聴いていました。

すると、退院する時には、随分とスッキリした顔で過ごせるようになっていました。


自分のことを苦しめていたドミナント・ストーリー
泣きながら苦しみながら、それでも言葉にして支援者に伝えたことで
オルタナティブ・ストーリーに変えられたのだと思います。

支援者が解釈を加えずに
「無知の姿勢」で物語を受容すること

そしてクライエント自身が「新しい解釈」を発見できること

大切だと思います。

そして、自分を苦しめていた物語から解放されたクライアントに対して

「大丈夫、進めるよ」

そんな言葉をかけて背中を押してあげるのが、セラピストの役目なんじゃないかなって思います。

今日もどこかで過去の囚われから解放されて
今を精一杯生きられる人が1人でも増える世の中でありますように。

福祉の仕事を通して実現していきましょう!